「橙」 一覧
「陽があたると、やさしくなれると思う。」
「陽があたると、やさしくなれると思う。」
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重ねていく季節の中で
荒んだ心は癒えていくのであった。
それは、人と人が紡ぎだす
“心を通わせること”。
秋なのに安らかな顔をして
風景は明るい光に包まれていて
葛藤した日々を越えていく。
涼やかな風が教えてくれる。
次はこうしていこうって
君はたおやかに風を仰ぎ
私は右手と、左手を広げた。
それは翼のように
今ならどんなことも
ひっぱられないでいた。
季節の移ろいは早いもので
あれほどに積もった雪も地面が見え始めて
濡れた道は春を感じさせた。
雪解けの匂いは故郷を思い出させてくれる。
やがて身体は動くようになり
心は軽くなるだろう。
幾度も願った、春が訪れてほしいと。
豪雨だ。ピシャリピシャリと
打ち付けて。雷も鳴っている。
思い通りにはいかなくて。
吊るされたように
まるで身動きが取れなくなっていた。
「だけれどそれは、あなたが
表したいことを
表したい方法で
表していかないからだ。」
秋の初め頃、気がついたように
走り出していった。
失ったこと、置いてきたこと、
また、表すために
風に乗って、山吹色の稲穂畑が
連なる上をまっすぐと
思うがままに飛んでいくのだ。
薄く色付いた紅色やオレンジ色のあの日々が
いつまでも自分を苦しめた。
跳ねてもぐんぐんと走っても平気だった頃、
何色にだって染まって私は何も知らないまま過ごした。
幾つも春が過ぎて夏も過ぎて
明日も明後日も過ぎて気が付けばまた春に戻った。
いつまでも苦しめた。
今日、この場所で瞼を開けていたら
あの日々を重ねていた。
同じようで全然違う、だけれど何重にも
あの日々を忘れるぐらいに
色は重なって濃くなって、
本当に幸せだった。
心の中で熱は冷めなかった、
怒りさえも気付けなかった。
夢の中でわたしは拳を上げる、
君は泣きそうな顔をしながら
笑顔で、わたしの矛先を受けた。
あの時上手に怒りを燃やしきっていれば
時が随分経ったとしても
こんな風に、むなしい朝は来なかっただろう。
なぜだ、こんなに震えるような思いを
持っていても、立ちはだかる壁は多くて
終わりのない道でずっしりとした
熱に蒸発するようだった。
掴もうとしても掴もうとしても
砂埃が吹き荒れて引き戻されるようにして
スタート位置に立たされた。
こんなにも、こんなにも
熱情を抱えながら、果てしなく
聳え立ついくつもの大きな岩の壁を見つめて
生きていくには、あまりにもつらい。
☆2015年製作「熱情に往く」より。
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