白雪姫は毒林檎を齧る
2020/10/31
少女は老婆にもらったという
艶めいた紅い林檎をかじる。
それは甘酸っぱくて美味しくて
いくつも、いくつも
毒林檎とも知らず
まるで狂ったように食らうのであった。
この上ない喜び悲しみ
2020/10/24
やがて着地した世界で
すべてを燃やしている私がいる。
すべてこの燃えてしまった炭になったものは
目を閉じて、遠い遠い昔のことにしよう。
あまりにもかなしすぎるから
あまりにもつらいことを思い出しすぎるから
自分だって変えてしまって
生き方だって変えて
自分の神様さえ代わってもらって
目を閉じて、すべて君たちはいなくなったと
この世にいないことにした。
けなされて、けなしてきたこの言葉たちが
いつまでも棘を刺して
ずっとそこから抜けない。
だけれど深い棘を思い切り抜いて
私は強く向こうへ旅立つ。
いくら血まみれになっても構わない
この刺を海に葬る。
いくら血まみれでも痛くても
目を覚ませば嬉しくて泣いてた。
泣いてたんだ。
命の鼓動は聞こえているか
2020/09/27
忙しなく溢れ返った言葉の海に溺れてしまって
どこまでも流された。
それは戦争のない世界なのに
まるで心の戦争みたいだ。
幻のあなたは言う。
この世で一番大切にすべきものは
言葉だ、と。
それは心の中でも現れるものでも
昔の私だって今なら知っていて
幾つもの隔たりを感じながら
今何をすればいいか自分に問う。
―命の鼓動は聞こえているか。
―破裂してしまった命のことを忘れるな。
―遠い君がそうだったように。
白い花束は私に教えてくれる。
もう間違えては、いけないと。
私の選択。
2020/09/17
目まぐるしいほど
手や足を動かしていた、
9月。それは置かれたレールから、
自分で選ぶレールに線路を分岐した。
私は旅をする人だ。
ここから先は自分で何もかも選んでいくのだ。
手や足や、耳を澄ませながら
ぎらぎらと瞳を光らせながら
静かに厳かに一歩、進んでいくのは
もう不安があっても
これが現実であることを
受け入れたのだから
幸せになることを恐れることはもうないだろう
振り返ることもあれば薙ぎ払うこともあった、
燃やし尽くすこともあった。
壊し続けることも、葬ることも、
自分の心だって殺してきた、
そういう風に沢山のことを選んできたのに
今私は幸せになろうとしている。
訳がわからないほど叫んだ日は
途切れないのに
それでも進もうとするのは
強い声が、強い鼓動が
そこへ行け、と背中を押しているからだ。
湖のほとりで呼ばれている
2020/08/11
現影の日から、時を経て
この場所、この地へ降り立った。
見る場所は知らない世界だけれど
徐々に電車を乗っている間に
ふしぎと懐かしくて
訪れた湖は
まるで呼んでいるみたいな心地で
波は穏やかで
つらいことも疲れも苦しみも
すべて波がさらってくれるみたいで
こんなに空気が澄んでいるのなら
今日は思いっきり深呼吸してみようって
思った、今、空を飛んで
湖にさらわれてどこまでもゆけるみたいだ。
誰よりも飛び立つ心があるなら
2020/07/29
終わらない、すべては終わらないのだ。
ずっとここから
どこまでも続いてゆく。
いくつもの振動を成した音たちは
瞬く間に騒がしく鳴り始めた。
その途端空気が変わって
彩りの幻想が浮かび上がった。
滑走路を駆け始めて、
今、飛び立とうとしている。
確信に近づいた私たちは
どこにいても
信じ続ける、
終わらないレールがずっと彼方まで
続いてゆく。
ゆこう、ここから何十年も
私たちはずっと
ずっと、
ずっと、一緒だ。