幸せのために
2015/09/11
「…人のために、行いをしたとしても、
それはきっと自分のためでもあるんだ…」
足元はすごく冷たいのに、
肩の上にある加藤の手が、とても、やさしくて
あたたかくて、それでいてかなしかった。
こんなにやさしいのに…いや、こんなにやさしいから…
かなしいんだろう。
☆サウンドノベル
「朝焼けのブルー?-Pianissimo episode-」本編BGMより
槇の疾走
2015/09/10
祐の手は誰かに強引にひっぱられて、
いつの間にか走っていたのだ。
視界をはっきりさせるように、目をこすると、
目の前に槇が汗ばんだ手で自分を引っ張っていた。
☆サウンドノベル
「朝焼けのブルー?-Pianissimo episode-」本編BGMより
遠のく世界
2015/09/10
怒った顔の槇が
一冊の寂れたえんじ色の本を手に取った。
ぶつかったときの衝撃、落としてしまったせいか、
分厚い表紙がぶらりと、取れてしまっていた。
祐は頭がぐるぐるした。
槇は強い口調で吠えるように言った。
☆サウンドノベル
「朝焼けのブルー?-Pianissimo episode-」本編BGMより
道
2015/09/07
心が彷徨っているから、何度だって
問いかけたんだ。自分が間違っていたのだと
認めながら、目を背けて外に出ては笑った。
夜になれば、ベッドで呻き、転がるようにして床に落ちた。
苦しいときは、楽しいことをしようと思っても
ほんとうのことから背けてはいけないと
心の中にいる自分は、過去を指で描いて
おしえてくれた。
殻を打ち砕き、外へ、外へと向かっていく。
思えば、そのことばかりを求めて。
思えば、そのことばかり求めすぎて。
求めすぎて。
私は遠い日のことを、そっとまぶたを閉じて
風に吹かれながら思い出していた。そっと、だ。
求めるほうが、無駄だと思っていた。
ないものは、ないものだと思っていたんだ。
求めれば求めるほどつらくなるから、
それならあきらめればいいと。
目を開ければ、いっぱいになった容の中で
ばたばたと溺れていた。
「私は、」
いつものように出かける朝
2015/08/26
"朝"を起きれば、変わらず、
少年の部屋には桜貝がいつものように
ちょこんと金魚鉢に沈んでいる。
いつものように、変わらず、家を出た。
学校の時間が始まる。
☆サウンドノベル
「朝焼けのブルー?-Pianissimo episode-」本編BGMより
ひらり、秋がきました。
2015/08/23
詩
そうして、今年も。秋がやってきた。
秋が、 やってきたんだ。
空は、すっかり 高い雲が まばらに広がっていて
かすかに、風が はこばれてくると
まぶたを、とじた。
「涼しい」
この風や 匂いを 身体中がおぼえているようで
さみしい気持ちと そして
うれしい気持ちと。
遠き日のことを 思い出しながら
そっと まぶたをひらくのだった。
☆少し空が高くなったような感じがしまして、
初秋の朗読作品を制作しました。
いつも。視線の向こうには君がいる
2015/08/17
砂浜に、今日も駆け降りた。
カモメの鳴き声が水の上で響く。
ゆっくり、日が沈む海の向こうの空を眺めながら、
海小屋に向かった。
今日は海小屋に、ランプがついているように見えた。
あの人がいる場所へ、気が付けば足を運んでいた。
☆サウンドノベル
「朝焼けのブルー?-Pianissimo episode-」本編BGMより
落ち葉の時間
2015/08/10
落ち葉が好きだった。
たとえば、雨の日水滴がついたガラス窓よりも、
檸檬色のカーテンがふわり、舞うように
揺らめく風景よりも、落ち葉が好きだった。
☆サウンドノベル
「朝焼けのブルー?-Pianissimo episode-」本編BGMより