エメラルドの風
2014/06/09
きみは、
「雨の匂いが好き」と言った。
わたしは、
「この花、近くで見ると、すっごくきれいだね」と言った。
そうやって、自分にとっての幸せを、
真の気持ちで言い合えるのなら
もうそれでなにもいらなかった。
「飛行機雲だ!」と指をさして笑うことも、
許されない世の中で
ほのかに色づくやさしい風の匂いを感じた。
そのエメラルドの風は、包むように背中を押してくれた。
いつも右肩にそっと手を置いてくれてるようで、
電車がホームに転がるように到着するときの場面でさえも
怖いという気持ちが、軽くなり、自分を守るように構えた。
携帯を見つめる人しかいない夜の電車に乗った。
色んな建物がひしめき合う中で、
外の光がガラスに反射して彩る。
心の中がもぞもぞして、さびしかった。
きみと、こんなとき、
窓の向こう側を見て、楽しく笑いあえたら
とても幸せなのにな、と。
うつくしい世界があると気付いても、
きみがいなくてはならない。
うつくしい世界があるとしても、
しあわせになれるわけではないんだ。
きみといつもの風景を眺めるから、楽しいし
きみとごはんを食べるから、おいしいし
かなしいときも、きみは泣いてしまうので、
こころがやさしい。
きみと、目を閉じて、
風や葉の音をきいてベンチに座っていた。
しばらく目を閉じていれば、
開けた時、とてもまぶしいと知る。
すごくまぶしくて、目をぱちぱちさせて。
空にはカラスがぐるりと飛んでいた。天気がよいから、
気持ちよいのだろう。
きみに、であえたことが、
うれしくて今夜は泣いてしまおう。
こんなことは、誰しも、
ましてや簡単に、言えることではないのだ。
きみに、であえたことが、ほんとうにうれしい。
隔たれた世界では君が聴こえる
2014/05/12
君の音が、よく聴こえる。
別に喉が渇いてたわけじゃなかった。
烏龍茶のMサイズをファーストフード店の一角で口にしては。
朦朧とした空間の中で小さく君のことを浮かべた。
まるで世界から蹴飛ばされた場所では、
喧噪とした声が刺さるように乱暴に響く。
目を細めては、時計を見て足をぶらつかせた。
君は
2014/04/15
「僕達のいた学校の、終わりの翌日」
山間にある小さな中学校、
朱矢中学校は今年度をもって廃校となる――。
地元の事情から既に下級生達は他の学区へ転校しており、
六人の卒業生とたった二人の先生だけで
『昨日』の卒業式を迎えることになった。
週明けには校内の片付け作業も始まることになっており、
小さな校舎から彼らの痕跡は消えていく。
残っているのは今だけ。
そんな日に起こる、彼らと誰かの何か。
――――『卒業式の後、君は』イントロダクションより
granat様主催、
廃校アンソロジー本「卒業式の後、君は」の
イメージ音楽を製作させて頂きました。
廃校を舞台に、小説やイラストを交えた
遊び心の詰まった、一冊の本を製作しております。
後日、イベント頒布や通販等も行われます。
ラングドシャをひと箱
2014/03/27
思えば、最初から、ラングドシャを一人でひと箱開けるような
女の子だったら、よかったのかもしれないって。
ダメだってことは絶対ダメだったし、
そのまま生きてしまったのがよくなかった。
だから、今日はラングドシャをひと箱開けてむさぼるように、
食べよう。それがいいんだ。ほんとうに。

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