存在なら消した、風なら吹いた。
2017/09/06

山吹の風は吹いてきた、
夜、トンネルから抜けてからも
眩暈がした。何も照らすものはなかった、
光を持っていたとしても
それは、”光”ではなかった。
それならば、風に溶けてしまえ
何ともないことで、くよくよしてしまうのなら
自分など存在のしない感覚で
生きる実感を捨て
ただ、手を動かして足など踏んでしまえ、
いない、いない、ここにもそこにも
あしたにもいない、
どこにもいないならだいじょうぶだ。
途端、雷とともに雨は降りだした
2017/08/24

ピシャリ、と刺々しい雷が
風景を白、それから黒に
染めて。すぐそこまで追いかけてきた。
渦を巻いている大きな雲も
少しずつ勢いを増している、
息が苦しいぐらい湿度は高く、
体は動かない、雨が降り出してきた、
逃げられない、
その風が近づく、雨音は叩き付ける、
息を呑む、瞬間、走り出した。
空中ブランコに寄せて
2017/02/05

決して楽しくはないこの場所で
唯一乗れる空中ブランコは心を癒してくれる。
憂鬱な気持ちは風に運ばれて
ぴゅうっと廻った、
そうして加速する、吹かれては瞼をとじて。
海は笑うようで
2016/10/15

「また、海を見てたんだね」
海は教えてくれる。ここにいなくちゃいけないと。
ずっと背負い続けなきゃ、いけないと。
夜が来るたびに、黒い闇が迫ってきて、
あの子のことを考えながら、眠りについて、
朝になって、海の音が聞こえて、
あの子のことを思い出して、過ごして。
隠れていた月に、雲がだんだん流れて、
おぼろげに光を帯びて姿を現した。
月が静かに、海へと映って揺らいでいた。
今日も、明日も、明後日も、
苦しみ続けるいつもの風景は、
ゆっくりと動き出していた。
☆2017冬公開予定、
「朝焼けのブルー? - Mezzo forte episode -」より。