熱情は囁く
2023/05/02
風が吹いていた。
確かな風だ。
それは夜のこと。
街灯の少ない道路をカーブする。
信号機が点滅する。
人は歩いていないけれど、
スーパーの明かりが付いていた。
車窓から見える風景の中で
確かな風が吹き付けてきた。
それは、願っていた風だ。
幾度も感動したから
あまりよく覚えていないんだって
きっと訳のわからないぐらい
苦しかったからだって
私はそう笑って
一面に水が張られた田んぼの景色を
助手席に乗りながら通り過ぎていく。
熱情は冷めなかった。
放出した力で身体は燃え滾っていた。
苦しむほどに熱く
悔しむほどに問いかけた、
掻きむしるほど情けない姿で叫んだ、
だからこの風が
あまりにも涼やかで
あまりにも確かだと
そう、思ったんだ。