エメラルドの風
2014/06/09
きみは、
「雨の匂いが好き」と言った。
わたしは、
「この花、近くで見ると、すっごくきれいだね」と言った。
そうやって、自分にとっての幸せを、
真の気持ちで言い合えるのなら
もうそれでなにもいらなかった。
「飛行機雲だ!」と指をさして笑うことも、
許されない世の中で
ほのかに色づくやさしい風の匂いを感じた。
そのエメラルドの風は、包むように背中を押してくれた。
いつも右肩にそっと手を置いてくれてるようで、
電車がホームに転がるように到着するときの場面でさえも
怖いという気持ちが、軽くなり、自分を守るように構えた。
携帯を見つめる人しかいない夜の電車に乗った。
色んな建物がひしめき合う中で、
外の光がガラスに反射して彩る。
心の中がもぞもぞして、さびしかった。
きみと、こんなとき、
窓の向こう側を見て、楽しく笑いあえたら
とても幸せなのにな、と。
うつくしい世界があると気付いても、
きみがいなくてはならない。
うつくしい世界があるとしても、
しあわせになれるわけではないんだ。
きみといつもの風景を眺めるから、楽しいし
きみとごはんを食べるから、おいしいし
かなしいときも、きみは泣いてしまうので、
こころがやさしい。
きみと、目を閉じて、
風や葉の音をきいてベンチに座っていた。
しばらく目を閉じていれば、
開けた時、とてもまぶしいと知る。
すごくまぶしくて、目をぱちぱちさせて。
空にはカラスがぐるりと飛んでいた。天気がよいから、
気持ちよいのだろう。
きみに、であえたことが、
うれしくて今夜は泣いてしまおう。
こんなことは、誰しも、
ましてや簡単に、言えることではないのだ。
きみに、であえたことが、ほんとうにうれしい。